溺れる恋は藁をも掴む
 ガキだったんだよな……俺。

 そんな大人達の理屈が、理不尽にしか感じなかった。

 ただ悔しい‥‥
それだけだった。


 この生活を抜け出すのは金。


 簡単に言ってしまえば、そういう事。


 親父に怒りを感じても、最低な人間だと思っても、結局、養って貰っているのは事実。


 あの後、親父は飲みに行ったみたいで、深夜遅くに帰宅した。


 翌日は、何も触れてこなかった。

 大体、酒を飲んで親父が乱れた日は、覚えてない事も多かった。

 敢えてそれに触れないのも、家族のルールのようになっていた。

 いや‥‥きっと親父は覚えていても、酔っ払った自分の醜態を認めたくなかったのかもしれない。



 居心地の悪い朝の食卓。

『おはよう』『いただきます』『ご馳走さま』

 必要な言葉のみ交わし、母さんの作った朝食を食べて、時間になるとそれぞれが席を立つ。





 その日以来、俺は野球への未練を捨てた。

 本当は、野球に強い高校を受験して、甲子園を目指してみたかった。


 親父と喧嘩するまでは、少なからずとも、そんな夢をみていた。


 でも‥‥

 親父の言葉や母さんの言葉が、頭から離れなかった。


 俺が言った事は、悔しいけど、ガキのはったりに過ぎない。



 坊主頭を辞めて髪を伸ばし始めた。
高校も受験対策がきちんとされてる、学校を選んだ。

 いつ、何時、何が起こっても、大丈夫なように、高校に入ってからはバイトを始めた。
勿論、勉強もした。

 二度とあいつに、あんな事を言われないように意地にもなった。


 ーー俺は、絶対負けない!!ってーー



 あの頃の俺は、とにかく、こんな家を早く出たかった。

 そんな事ばかりを考えていた。


 自立出来る金が欲しかったし、家族とのしがらみからの解放を強く望んでいた。
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