溺れる恋は藁をも掴む
 母さんは話を続けた。

 「お母さんが一生懸命働いても、お給料なんて、たかが知れてる。

 お父さんには敵わない。

 お父さんは愚痴を言いながらも、仕事を全うしょうとしてる。

 確かに家族は迷惑よ。

 本当に嫌気がさすわ。

 お母さんも本音で言えば、晶の言葉は当然だと思うし、間違ってない。

 だけど、現実はね‥‥
そんなに甘くないの。

 堪えられなくなって、晶と柊を連れて出て行っても………

 お母さん、あなたたちを幸せにする自信ないなぁ……


 ごめんね。

 お母さんに力なくて。

 お母さんに何か才能があればね‥‥

 あなた達を養うくらい稼げる仕事をしていたらね‥…

 あなた達に我慢なんてさせなくて済んだね。

 勿論、自分も我慢なんかしてない。

 でも、限界ならいつでも言ってね。

 苦しい生活にはなるし、不自由させてしまうかもしれないけど、あなた達を犠牲にしてまで、守るものなんてない。

 あなた達まで壊れてしまうなんて‥‥‥

 そんなの嫌よ!

 お母さんにも覚悟はある。

 だから、晶‥‥‥
一人で悩まないでね。

 その時はいつでも言って!!


 あっ! 冷やし中華のびちゃうよ!
早く食べなさいね!」

 そう言って部屋から出て行った。



 母さんだって辛いのは十分分かる。

 俺をちゃんと庇ってくれた。

 ぼんやりした頭で、お盆に手を伸ばす。

 のびきった冷やし中華は、やっぱり、不味かった。


 腹がたっても、やっぱり腹は空く。

 ズルズルと流し込む様に冷やし中華を食べながら、また涙が溢れてきた。
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