溺れる恋は藁をも掴む
 そんなたわいのない話で盛り上がり、ホロ酔い気分で居酒屋を出た。


 会計の時、伝票を取ってレジに向かうアキを止めた。

 「今日は、アキを労いたいから、私が払うよ」

 『ダメだよ』って言うアキ。

 「最高の理解者なら、こうして、アキを労う事も必要でしょ?」

 そう言ったら……

 『有り難う』って、アキが申し訳なさそうに言った。

 「この間の卒業式のお礼も兼ねてよ!
そういう気持ちのない女ってダサいでしょ?」



「わるいな……
 なら遠慮なく、ご馳走さん」

 そう言って、アキは笑った。



 それから………
二人で噴水公園まで並んで歩いた。


 空を見上げたら、満月が高い位置にきていた。


 このまま時間が止まればいい‥‥‥
まだ‥‥一緒に居たい‥‥‥



 大きな噴水の前。


 「遅くなったから、送るよ」

 そう言ったアキ。







 「アキ‥‥‥
もう少し、一緒に居たいって言ったら、迷惑かな?

 あっ‥‥‥今日は、お父さんの命日だし、アキは仕事だったし、疲れてるよね……
 そういうとこ気が効かなくてごめんね」





 アキはそっと私を抱きしめて、囁くように言ったんだ。




 「こんな日だからこそ、一緒に居たい。
 満月の夜は、男は狼になるんだよ?」

 「なら、狼を求めちゃダメ?」

 「ダメなわけないじゃん!
むしろ……
 ーーそうしたいーー」



 二人は、また顔を見合わせる。

 ーー照れくさいね、慣れないね、こういうシチュエーションーー


 満月の夜に、私はあなたを求めた。
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