溺れる恋は藁をも掴む
 百合との約束は守ったんだ。
めちゃくちゃしんどい約束だったけどさ、百合を大事に思っていたから、我慢も出来た。


 ある日、家に帰ると玄関からカレーの匂いがした。

 家に入ると、食卓で笑う母さんと弟が居た。

 「晶、お帰り!」

って、にっこり微笑む母さんとカレーを待ちきれない様子の弟。

 「今日ね、柊ちゃん(弟)と映画観たの。

 柊ちゃんが帰り道にカレー屋さんの前通ったら、食べたいっていうから、お家でお兄ちゃんと食べようって言い聞かせて作ったんだよ。

 もうね、凄い面白い映画でさ、柊ちゃんと笑いっぱなしだった。

 柊ちゃんの笑顔も久しぶりに見た。

 晶、ごめんね。

 あなたにも随分迷惑掛けたね。
お母さん、ちゃんとするから。
悲しんでいてもお父さん報われないもんね」


 親父が死んでから、ずっと塞ぎ込んでいた母さんが、ここまで元気を取り戻してくれた。
仕事にも復帰して働くようになった。


 「ずっと、弱いお母さんを晶が優しく支えてくれたから、このままじゃいけないって思ったの。
 晶、もう大丈夫だからね」

 そう言ってくれたんだ。

 久しぶりに母さんのカレーを笑顔がいっぱいの食卓で食べた。


 百合が居てくれたからなんだ。


 百合が心の支えになってくれたから、俺は優しくなれた。


 人を好きになるって、物凄いパワーなんだな……



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