溺れる恋は藁をも掴む
 俺が大学生になってからも、百合は店で働いていた。

 高等学校卒業程度認定試験は、秋に実施されたんだ。

 百合は働きながら、その資格に挑戦した。


 「晶の合格にあやかって、私も絶対合格するからね!」

 「大丈夫だよ。
百合なら。
 百合が資格取れたら、店は辞めてくれるよね?」

 「…うん」

百合は浮かない顔をした。

「辞めたくないの?
水商売がそんなに好きなの?」
俺はムキになった。

 「好きよ。
学歴のない私を受け入れてくれた仕事だし、ママには恩があるの。

 晶と出会ってなかったら、この世界でずっと生きていくつもりだった」

 俺は唖然とした。

 百合からそんな意外な答えが返るなんて、思ってもいなかったから。

 「俺はイヤだからな!
百合が他の男とイチャイチャするの。
それをずっと見るなんてイヤだ!
約束はどーすんだよ!」


 苛立ったんだ。
物凄く。

 俺は百合との約束をちゃんと守った。
大学にだって、ちゃんと通って講義も受けてる。

 百合以外の女に言い寄られても、見向きもしなかった。

 時給のいい引越し業者でバイトも始めた。
めちゃくちゃキツイ仕事だけど、百合といつかは一緒に暮らしたくてさ……

 卒業して就職したら、プロポーズをするって決めていた。

 指輪も買ってやりたかったんだ。



 なのに…………


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