溺れる恋は藁をも掴む
『セックスしたくなった女が、たまたまそこに居ただけだ。
数時間、身体を合わせただけ。
心はお前しか求めない』

いつも、そんな言葉に私は惑わされるんだ。

 彼さ………カメラマンしてるんだよ。

 初めて撮って貰った時に言われた。

『お前、超イカした女だな!
こんなに綺麗に産んで貰って、親に感謝しろよ!。

 ファインダーから覗いたお前のツンとした美人顔。

 挑戦的でゾクッとさせる目。

 ーー堪んないねーー
 カメラマンを本気にさせる女だよ……
 
 ーー莉緒はーー

 そういう女に出会ってこそ、シャツターを切る意味を感じる』って言うんだ。

 嬉しかった。

 遊び慣れた男が言う事を真に受けちゃったよ。

 好きになる気持ちまでも止まらなくなった。

 例え浮気されても、私の元に戻るあいつを嫌いになれない。

 だから、寂しさを心に抱えてもがいてしまう。


 バカだよね……


 彼、大阪に転勤になったんだ……

 『浮気をしないなんて約束は、まず無理かもな……

 でも、心は莉緒のままの自信はある。

 待ってろ!

 俺は、待たせる価値のない女には、そんな事、絶対言わない男だ!』

 なんて言うんだよ。
お前、一体何様だよって感じだよね!

 嫌いになれたら楽だった。

 晶だったら良かったのに……

 晶みたいな男は、私みたいな女を好きにならない。

 それに、私も………
結局、そういう男を選んでしまう。

 ーー全く、うまくいかないねーー



 晶………

 抱いてよ……

 気持ちいいセックスしょう!


 見返りを求めない、最高の理解者として!
心底にある気持ちを抱いたままでいいから!」


 莉緒と俺の弱った心が重なった瞬間だった。

 互いの唇を重ねて、その先を求めた……



 百合を失ってから、楽しいとか嬉しいなんて感情がなくなってしまったかのように、ただ息を吸って生きているような灰色の景色の中に閉じ込められた毎日だった。

 百合の思い出や面影ばかりを追い、知らず知らずに泣いていた。


 親父を失った時の母さんのように……


 寂しさに押しつぶされそうな自分を、ほんのひと時でも救って欲しいと思った。








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