溺れる恋は藁をも掴む
 寿司が届き、それを食べながら、暫しの家族団欒。

 話の話題は柊の進路のこと。

 「保育師になるってマジか?」

 「マジ!」

 トロを遠慮なしに摘みながら柊が答えた。

 「なぜに、保育師なんだよ?」

 「子供好きだからさ!」

 「子供が好きだからね…」

 「あら、いいじゃない!
柊ちゃんに合ってるよ!」

 「でしょ!
保育師になったら、初めから先生って呼ばれるんだぜ!」

 「そんな理由か?」

 「俺は親父や兄貴と違って、闘争心みたいなもんがないから、サラリーマンとか営業なんて仕事には向いてないの」

 「柊ちゃんの彼女も保育師目指してるんだよね?」

 「そそ」

 ーーなんて、オープンな親子だーー

 俺が柊くらいの時は、いちいち自分の恋愛なんて報告しなかったけどな…

 「で、保育師なわけ?」

 「彼女と一緒に夢を叶えるのも悪くないだろ!」

 「お母さんはいいと思う。
柊ちゃん優しいし、面倒見良さそうだし……
これから働く女性も増えてゆくだろうし、いい仕事だと思うよ!」

 「まぁ、いいんじゃね?
大学とか行きながら考えるのも手だぞ!」

 なんて、高校の時の国語教師、シュガーの口調になってみたり……

 それと、あの頃の自分と比べたりもした。

 やりたい仕事がある柊は、俺より大人なのかもしれないって。

 彼女の影響が強かったとしても、俺が文句言える立場でもない。

 歳を取った割には生き生きしている母。

 親父が亡くなった時とは比べものにならないくらい、元気はつらつな感じ。

 弱いと思っていた女は、一番強く生きてきたのかもしれないな……

 時間の経過と共に人は変わってゆく……

 いつまでも、同じ場所には居られないし、居れないんだよなーー



< 229 / 241 >

この作品をシェア

pagetop