溺れる恋は藁をも掴む
 コーヒーショップの中に入った。

 テーブルの席に目を向けると、あの人が座っていた。

 向かい合わせに座り、私もコーヒーを頼んだ。


 「久しぶりだね」

 「そうですね」

 「華ちゃんの噂は聞いていた。
凄く変わったって……」

 「そんなに変わりましたか?」

 「凄く、変わったと思う」

 「少し、痩せただけですけど!」

 「そっか…
 今日は時間作って貰って有難う!」

 「いいえ……
気になったから来ただけですよ」

 寸前まですっぽかしてやろうとも思ったわ!


 「たまたま、華ちゃんの会社のメンテナンスを頼まれてね。

 沢口がずっと担当していたんだけど、風邪で休んでいて、代わりに俺が来たんだ」

 「そうでしたか」

 頼んだコーヒーが運ばれてきて、ブラックのまま一口飲んだ。


 「華ちゃん……
華ちゃんを沢山傷つけてしまったよね…

 ーー本当にごめんなさいーー

 ちゃんと謝ってなかった…」

 「もう、過去の事ですから」

 「本当に今更だよね……
でも、華ちゃんを傷つけたままだったから、気になっていたんだ‥…」

 「開き直りましたから、ご心配なく!」


 つっけんどんな言い方になってしまうのはそれだけ辛くて、やっと忘れられそうだった事をほじくり返されて、腹が立つからだよ!

 
 「そのままじゃいけない気がした。
華ちゃんに謝罪の代わりに、本当の事を話そうと思ったんだ……」

 「何をですか?」


 神妙な面持ちで私を見ながら、誠治さんは話し始めた。
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