溺れる恋は藁をも掴む

 虚しさを抱えて、帰り道を歩いていた…

 セックスさえ上手くいっていたら、まだ誠治さんの腕の中で甘い余韻に浸り、可愛い女でいれたのかな……

 そんな事を考えたら、泣き出しそうになる。

 『泣いたら、………ダメ!』

 唇が切れてしまうほど、涙を堪える様に噛み締めた。



 「映画良かったね。
なのに‥‥
今日はごめんね。
嫌われちゃったかな?」

 誠治さんは沈黙を破り、ポッリと呟く様に言った。

 言葉にはせず、首を横に振った。

 『そんなに簡単に嫌いになれませんよ……』

 喉元まで出た言葉は飲込んだ。



 「今度は、水族館にでも行かない?
嫌われてないならの話だけど……」

 「えっ!」

 「好きなんだ……
水族館」

 「はい‥‥‥」

 「ちゃんと付き合っていかない?」

 「え?」

 「ダメかな?
俺じゃ?」

 「ダメなわけ‥‥
ーーないじゃないですか!!」

「ちゃんと、華ちゃんを好きになって、愛してゆく……だから……」


 「……はい」

 「こんな俺だけど、ちゃんと愛してゆくから」

 「はい、ちゃんと……私も……愛してゆきます……」



 この日、あなたは私に言ったのよ……

 『ちゃんと愛してゆくから』


 その言葉を信じて、心の靄を追い出した。



 「…好きだよ。
華ちゃん」

 「私もです……
誠治さん…」


 私達は手を繋いだ。
喧嘩の仲直りをするカップルのように……



 あなたが私を愛そうとしてくれた気持ちは、嘘じゃないって……



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