溺れる恋は藁をも掴む
 靄のかかったような不安な気持ちを、セックスで安心感に変えたかった。  

 今、誠治さんに抱かれているのは、私!

 私なんだから!!



 ーー暫くすると、誠治さんの動きが急に止まってしまったーー


 えっ!

 何?

 何が起こったの?




 「ごめんね‥‥‥
少し、飲み過ぎたかな………?
それとも緊張してるのかな…………?
疲れているのかな……………?
ごめん‥‥‥本当にごめん………
ーーダメみたいーー」

 それは………私の身体にガッカリしたという事?

 最後まで無理……って……途中でダメだなんて………えっ!……え、、、、えー!!



「 ……私の‥‥身体じゃ‥‥ダメですか?‥‥」

 力なく聞いてみた。

 「あっ、いや、そんなんじゃないよ!
昨日の残業の疲れだな……
 それと、お酒さ………強くもないのに勢いで飲んじゃたから…………」

「……本当ですか?……」

 「本当だよ。
悪いのは俺の体調だよ。
ごめんね」

 男の人は、そんな日もあると聞いた事がある。

 そんな時に、女性に責められたら、嫌気がさすとも……




 「気にしないで下さい」

 そう言うのが精一杯。

 「ごめんね」

 そう言って、あなたは私の身体から離れた。

 さっきまでの体温が急に冷えてゆく……



 重い空気に包まれて、沈黙になりがちになり、一緒に居るのが切なくもなって、帰り支度をして、部屋を後にした。

 決して、あなたを責めたりしない……

 ーーでも、寂しいよーー


 余韻に浸る暇もなく、裸の私は置いてけぼりの気分。

 そんな時に掛ける言葉は見つからない。

 『ごめんね』を繰り返す、あなたの言葉が今も耳に残る。


 こういう時は…………
『ごめんね』なんだと…………

 泣きそうになりながらも、あなたに嫌われたくない私は唇を噛み締めた。


 あなたが居ないところまで、涙は隠さないと。
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