これを『運命の恋』と呼ばないで!
「別れた後、後ろから大きな声が聞こえて振り向いたら、お前の横を植木鉢が掠めていくのが見えて」


「植木鉢?」


そうか。

あの茶色いのは植木鉢の中に入ってた土だったのか。
それじゃああの緑色は葉っぱで、赤いのはきっと花だったんだ。


「さっきと言い、今と言い、お前はどうも不注意過ぎるな」


何事も無くて良かった…と息を吐かれる。

今日は本当に厄日だ。
この数日間の安泰が一気に逆転したみたいだ。


「すみません……仕事以外でもご心配をおかけして……」


泣きながら謝る。
こんな事が続くのも、きっと死期が近づいてるせいだ。


「お前一人だと気になるから家まで送ってってやるよ」


鬼先輩が言い出した。

いや、鬼ではなく、今はむしろ救世主に近い存在だけれど。


「だ、大丈夫です!私なら」


送ってもらうなんて滅相も無い。
仕事も手伝ってもらった上に、夕飯までご馳走になっているのに。


「遠慮なんかするな。と言うより何かあったら俺の責任だから嫌だ」


あー、成る程。
やっぱり個人的な理由が優先なんだ。


(そうよね。私のこと心配してる訳じゃないよね……)


何処となく悲しい気持ちがするのは何故だろう。
送ると言って譲らない先輩の顔を見つめ、諦めたようにお願いした。


「じゃあ、近くまでお願いします」


やっとホッとして歩き出す。

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