これを『運命の恋』と呼ばないで!
別の救世主
「ふぅ…」


密閉容器を手にしてオフィスに戻ると、既に先輩は仕事を幾つか片付けた後でーーー



(相変わらず捌けてるな…)


オフィスの冷蔵庫に漬物の入った容器を置きに行く。
今日のところは満足する程食べたから、これは家に持って帰って食べようと決めた。


(まさか、あの店が京塚先輩のお店だなんて知らなかった……)


戸口のところでぶつかった相手は、5年前に別れた元カレだった。

中に入ろうとしていた人に気づき、店員から声がかかった。


「お帰りなさい!若社長!」


「……若社長?」


何のこと?……と言うか、誰のことかと思った。


「その言い方やめて下さいと言ったでしょう」


目の前にいる人がそう言って視線を下ろす。

紛れもない2つ年上だった先輩。
名前は京塚理斗(きょうづか まさと)と言う。


「ナッちゃんだよね?若山夏生さん」


「は、はい!お久しぶりです、理斗先輩」


つい昔の呼び方をした。

(しまった…)と思う気持ちを汲んでくれたのか、先輩が嬉しそうに頬の肉を緩める。


「こんな所で会うなんて思わなかった。どうしたの?買い物?」


オフィスの制服だったからそう思われたみたい。


「いえ、あの、食事に連れてきてもらって……」


連れて来てくれた人がいなくて良かった。
元とは言え、この人は私の体の隅々を知っているから恥ずかしい。


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