わがまま姫の名推理
第2章


翌朝、あたしは乱魔に手を引かれて、倉庫に向かった。



倉庫に着くと、ウサギの姿が目に入った。


約束の時間よりも早いのに……



しかし、ウサギを見て乱魔が動揺していることがわかった。


しばらくの間、入り口から動こうとしないのだ。



「……あの……」



やっと動いて、声をかけたと思えばこれだ。


なんとも臆病な奴だな。



「はい……?あっ……!」



あたしを見るなり、抱きついてくるウサギ。


演技力が増したな。



「よかった……無事だったんだね。心配したんだよ?」


「じゃ、俺はこれで」



すると、乱魔が帰ろうとしていた。



「名前を聞け」



あたしはできる限り小さな声でウサギに言った。



「あ、あの!」


「はい?」



乱魔が振り向きざまに言う。



「お名前、聞いても……?」



ウサギ……


ほぼ、というか、完全に素ではないか。



「成瀬です」



……成瀬、一弥……



「成瀬さん、ありがとうございました。僕、住吉雪兎と言います」



あたしは乱魔の本名を知れて満足したため、ウサギの服を引っ張り、帰ろう、とジェスチャーした。



それに、気付いたウサギはうなずいて、倉庫の出口に向かう。



「それでは……」


「あ、はい」



なにか考え事をしていたのか、乱魔の返事はどこか曖昧だった。


倉庫を出る際、乱魔と目が合ったため、あたしは小さく手を振った。



「ちぃちゃん」



隣を歩くウサギが名前を呼んだ。



「なんだ?」



まっすぐ前を見たまま答える。



「これからどうするの?」


「それは乱魔たち次第だな。下手には動けん」



向こうに空海がいる限り。


パソコンにデータを入れていたら、ハッキングされて情報が漏れる可能性がある。



あたしもハッキングすれば向こうの行動を知ることができるが、空海のパソコンにそう簡単に侵入できるとは思えない。



となると、大人しくあいつらが動くのを待つしかない。


きっと、近いうちに動くはずだ。


乱魔なら、ウサギの素性を知って、なにもしないわけないからな。

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