恋凪らせん
それまでさんざん女友だちに洋太の自慢をしていたあたしは、彼女たちに「彼と別れちゃったの」と打ち明けることができなかった。
人によっては不快に思うほどの彼自慢を垂れ流していたので、「いい気味だ」くらいには陰口を叩かれただろう。けれど、話を包み隠さず思いきり広げて愚痴を聞いてもらって、お酒でも飲んでひとしきり泣いてしまえばそれで終わりだったと思う。
彼女たちは閉口しながらも「彼だけが男じゃないよ」なんて慰めてくれて、あたしも「誰かいい人いない?」とか甘えてみたりで、今ごろ新しい彼のひとりもいたかもしれない。
でも、できなかった。
冴えない女だったくせに、誰もが羨むような恋人を手に入れた勝ち組なのだという浅ましいプライドが「別れ」を認めなかった。洋太と完全に別れたあとも、あたしは「つき合っている」と嘘をつき続けていた。
最初は惨めだったけれど、だんだん感覚が麻痺してくる。誰も傷つけない嘘だからいいと開き直った。たしかに他人を傷つける嘘ではなかったけれど、自分は傷だらけになっていた。それも見ないふりでずっと過ごしている。
あたしの嘘はバレなかった。頻繁に会う友だちや会社の同僚たちは洋太との直接の繋がりはなかったし、別れたあとほどなくして彼は海外勤務になったからうっかり出会ってしまう心配もなかった。
自分さえうまくお芝居ができれば、洋太は態のいい「エア彼氏」だったのだ。
まったくの架空ではなく、洋太に会ったことのある友人も多いからその存在を疑われることはない。
自分さえうまくやれば、あたしは自慢の洋太とつき合ったままでいられる。たとえそれが偽りであったとしても。
だからやめられなかった。嘘を嘘で固めてもう身動きができないくらいなのに、嘘をつくことをやめられなかった。
つき合いは順調だと、幸せだと、みんなを欺いた黒い嘘はいつか自分に返ってくるとわかっていてもやめられなかった。