恋凪らせん



もう切り上げるつもりだったのに、ニックさんの言葉が嬉しくて張り切ってしまった。もう数ページ連載の下書きを進め、箇条書きで終えていた新作案をプロットの形に起こす。時間は飛ぶように過ぎた。
気づけばノートパソコンの前に屈み込んだ不自然な格好のまま、夜明けが近くなっていた。夜の群青が背中を向け、月は早暁に溶けていく。

講義は二限目からといっても、サークルもあるしバイトも入っている。少しは寝ておかないと身がもたない。
けれど、今まで小説の中を闊歩していた脳は妙に活性化されていて眠気なんかやってこない。布団にくるまる修司の寝顔が憎らしくなってくるほどだ。自業自得はわかっているけど、変な充足感に満ち足りているのも間違いない。

結局あたしは徹夜の冴えない顔のまま、すっきり目覚めた爽やか修司と連れ立って大学に行くことになってしまった。ふらつく足元と、茫洋とする頭を叱咤しながらの通学は、思いのほかきつかった。



なんとか二限目の講義を終え、修司と別れて他教室へ行く。三限以降は修司の履修講義と重ならない。五限目までをなんとか乗り切りサークル室へ。顔色が悪いと心配されたけれど笑ってごまかした。これからバイトも入っている。休むわけにはいかない。

夕方からのバイトは可もなく不可もなくで過ぎていった。酒とゴムの女は今日は来なかったし、亜由美ちゃんが休みだったから田宮くんも大人しかった。なんの変化もないフツーの日だったけれど、フツーが嬉しいと思うくらいにはさすがに疲れている。無事にバイトを終えいつもの帰り道を歩きながら生欠伸を繰り返す。ものすごく眠い。立ち止まったら二秒で寝れそうだ。

でも、今日は昨日の続きを書きたい。眠いけれど、頭の中の一か所だけが奇妙に冴えわたって、どこかスイッチを押したら無敵になれそうな予感がする。
さあ、そのスイッチはどこだろう。アパートに着くまでに見つけて、部屋に入ったらすぐに押したい。

今夜は思いきり妄想に浸って文章を綴りたい。



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