よるのむこうに

「俺が死んだらお前が困るだろ。牛乳は誰が買いに行くんだよ」

その牛乳を飲むのはお前だけだ。私は体質にあわないので牛乳は飲まない。馬鹿!ほんっとうに信じられないくらい馬鹿!


「なあ、ベッド買おうぜ。俺が金出すから二人で使えるくらいでかいやつ。
俺もう床はいやだしさ、ずっと床に布団じゃペットみてーじゃん」


あんたはペット以下の生き物だよ、大飯食らいの害獣だよ!何をペットの段階をすっ飛ばして彼氏に納まろうとしてるの!?一般のご家庭で真面目にご主人を癒すことに勤めているペットたちに謝れ!本気で謝れ!


「ねえ人の話聞こう?今はベッドの話なんかしてないよね、私の扱いについて話をしてるんだよね?頼むからひとの話を聞こうよ!」

天馬は普段からこちらが引くくらい一般常識がない。それが露呈するたびに馬鹿なんじゃないかと疑っていたけれど、一緒に暮らしてみると天馬は決して頭が悪いわけじゃないということがわかってくる。むしろ頭の回転は人よりも速い(こともある)。

そんな彼が馬鹿に見えるのは人の話をちっともきかないせいだ。
人の話も聞けないペット以下の存在の癖してなにがベッドだ。あんたなんか敷き藁(わら)でじゅうぶんだ。アルパカみたいにな!

「ベッドなんか百年早いわよっ……、せめて人の話が聞けるように、ちょっと、話を聞くときは話をしている人のほうを向く、って今は見なくていいわよ、変態!」

天馬がそのきれいな瞳をこちらに向けた瞬間、私は自分の体を腕で隠した。
怒りのためにすっかり忘れていたが、私は今、裸で、真昼間のリビングにいる。しかも全裸で。



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