よるのむこうに
とにかく何か着ようと服が散らかっているあたりに手を伸ばした瞬間、天馬が私の腕をつかんで引いた。
バランスを崩して後方に倒れこむと、天馬の体が柔らかく私を受け止めた。
「……夏子、俺を見限るのはもっとずっと先の話にしろ」
天馬は私の頭を抱き寄せてぎゅっと自身の胸に押し当てた。
「俺は確かに馬鹿で、お前が思うような『ちゃんと』はしてねえ。
でも女一人守れねえ男ではないつもりだ」
耳元で聞こえる低い囁き、その声は確かに天馬のものだったけれど、私には誰か別人のもののように思われた。
「は……?」
二年間ろくに働きもしないで、ゲームかパチンコしかしなかった子どものような人に、守られる?
自分の耳にした言葉が信じられずに顔を上げた。
二年も自堕落な生活をしていたくせにどんな顔をしてそんなことをいっているのか見てやろうと思った。ふざけ半分のヒーロー気分でそんなことを言うなら、本気できれてやろうと思った。
けれど顔を上げた時、天馬のきつい瞳はまっすぐで、美しかった。
二年間彼と一緒に暮らしたわけだけれど、こんなすっきりとした顔をしている天馬を見るのははじめてのことだった。
今まで私が見てきた天馬は、たぶん彼のすべてではなかった。一面に過ぎなかった。
天馬は汗のにおいがするであろう私の髪に顔をうずめ、しばらくそのまま動かなかった。
「……よし、やるぞ。
俺、できる気しかしねえわ」
「何が!?え、ちょっと。説明してよ、何をするの?」
天馬は何が嬉しいのか、天井を仰いでははっ、と声を立てて笑った。
「さあな、守るっつったら守るんだよ」
それを見ているこっちは嫌な予感しかしなかった。