よるのむこうに


医師はレントゲン写真を見つめ、一人で頷いた。

何を言われるのだろうと怯えている私は医師の表情の変化を見逃すまいとその横顔を見つめたが、彼の疲れが滲んだ横顔からは何の感情も読み取れなかった。


「亜脱臼ですね。痛かったでしょう。
動脈の損傷がなくてよかったです。」

私はガチガチに固定された自分の腕を見下ろした。


「リウマチの腫れで痛いのかと思ってました」

医師はボールペンの柄で髪を掻いた。

「……うーん……。リウマチを発症して間もない方っていうのはいつも通り動こうと無理をして疲れを貯めてしまったり、自分の状態に慣れていなくて今回のように急に動いてけがをしたりすることが結構あるんですよ。
日常生活の動作を工夫するというのは意識しないとなかなか難しいんですが、なるべく気を配ってみてください。手で荷物を持っていたところを肩にかけるようにするとか……。なるべく大きな関節を使うようにして負担を逃がしてあげるとかですかね。
ベッドは起きるときに膝が楽なんですけど、落ちたりするリスクを考えると……なるべく低めのものがいいかもしれませんね」

医師の言葉をきっかけに、天馬が大きなベッドを欲しがっていたことを思い出した。
休職中ということもあり、大きな出費は控えたい気持ちがあったが、節約したつもりでけがをしては本末転倒だ。

ベッドか。買おうかな。



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