よるのむこうに


「金、あんの?」


天馬が私の手元の紙を覗き込んだ。
いくらでも湧き出してくる不安の中に沈みこんでいた私はその声にはっと我に返った。

「んー。まあ、あるっていえばあるかな……。復職できるまでどのくらいかかるかわからないから、無茶はできないけどね……」


私は書類に意識を取られたまま目も合わせずにそう答えた。


「ふうん」
「入院、すんの」
「んー……」

煮え切らない私の返事に天馬は不思議そうな顔をした。


もし、私が入院中に死んだら。
そんなことをふと考えてしまい、天馬の顔を見上げる。

家を片付けなきゃ。
いや、家はともかく。


天馬の顔は何も考えていないみたいに見えた。いつもそうだ。彼はまだ起こってもいないことをくよくよと考えるタイプではない。


天馬はどうなるんだろう。

もし私が死んだら、私の親にまず連絡が行くだろう。親は飛んでくる。そして、私の住むマンションを訪ねて……そして知るのだ。天馬の存在を。

私は両親にも兄弟にも天馬について話をしていない。
いきなり娘の部屋に済んでいる男を見つけて、両親はどうするだろう。通報?それは困る。天馬は最近になってようやく真面目にモデルの仕事に取り組み始めたばかりなのだ。足を引っ張るようなことはしたくない。


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