よるのむこうに
「いい先輩でした。面倒見もよかったし。今は憧れの先輩ですね」
天馬はインタビュアーの質問にそう答えた。カメラの脇でアシスタントの人が書いた文句をそのまま読んでいるだけだ。彼の目は死んだ魚のようだ。
今まで私は一視聴者としてこの手の番組をみてきたわけだけれど、みんな自分の思ったことを自由に喋っているものだとばかり思ってきたが、こういうフリートークに見えるものについてもいちいち台本があるらしい。
好青年らしいセリフを口にしている天馬はまるで別人のようだ。目は死んでいるが。
天馬のインタビューは短いもので、それが終わった瞬間私はほっと息をついた。
ただでさえ不機嫌な天馬が好青年をまともに演じられるとは思っていなかったからだ。
「樋川選手入ります」
先ほどまで天馬のセリフを書き出していたアシスタントさんが立ち上がり、背の高い男をつれてスタジオにはいってきた。
一息入れていた天馬の横顔にさっと緊張が走る。
樋川亮輔という人は私が想像していたような怖そうな人ではなく、体こそ大きいもののどちらかと言えば柔和な顔つきの人だった。モデルや俳優クラスではないけれど、一般人レベルで言えばイケメンの部類にはいるかもしれない。けれどイケメンであることや柔和な面差しよりも、その存在感が強かった。私のようにスポーツには何の関心もない人間でも、彼を見るなりその迫力を感じた。
彼はスタジオに入ってくるなりさっと中を見回し、そして天馬の姿を見つけるとまっすぐにこちらへ向かって歩いてきた。
「天馬」
その顔には喜びが浮かんでいた。まるでまだ彼自身が高校生でもあるかのように笑顔が幼い。