よるのむこうに

青くなった私は天馬の手首に手をかけた。

「天馬」
「離せ」

唸るようなその声。
これほど激怒した天馬は今まで見た事がなかった。


「素人とバスケットをする絵があればそれでいいので、軽くプレイしてくださればいいですから。軽く!」


天馬の反応をただの緊張と見たアシスタントさんがとりなすようにそう言った。
局側としては本気で心温まるほのぼのシーンを取りたいだけなのだろう、天馬がここでこんな事を言い出すとは思ってもみなかった、そんな態度だった。

「彰久」

天馬は彰久君を振り返ってにらみつけた。

「仕事だぞ。……やれよ」


彰久君は日ごろの人懐こい態度などまるで感じさせない。それどころかその大きな瞳には挑戦的で、相手の怒りを煽るよう感情さえ滲んでいる。

「聞いてない」

彰久君は平然と肩をすくめた。


「言ってないからな。でも、仕事は仕事だ。……やれよ、夏子ちゃんを不安にさせるな」

「彰久君、私をダシにしないでよ……」

「ダシにしてるんじゃない、天馬のために言ってやってるんだ。お前がいつも不安なのはなぜか、その頭でよく考えてみろよ」

「不安、」


私は天馬の顔を見上げた。天馬はいつだって適当で食べたいものを食べて寝たいときに寝ている。日常何かに情熱を燃やすということがなく常に行き当たりばったりだ。ここまでストレスなく生きている人は珍しいというほど自由だ。

その天馬が、不安?
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