中崎町アンサンブル
腕時計は、夜の八時十二分を指している。

アキドリにもらったその腕時計は、今も僕の腕で、あの頃と同じリズムで時を刻んでいる。


町をともす灯は、不思議と人影を映さない。

まるで誰も居ない。
僕一人の町のようだ。


木造りで低い天井の家々、立て付けが悪くて、ちょっと力を入れないと開かなさそうな横引きの玄関。
軒先の盆栽、木の表札。
瓦の屋根、トタンの屋根、屋根の上には生えそろったコケと黒い猫。

ああ、
なんだ。

僕一人じゃないのかと初めて気づく。それから考える。どうして僕はここに迷い込んだんだろう、と。


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