わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
夫人の手を取って中央に進んでいく背中を見送り、リリアンヌは小さく息をついた。
葡萄酒をちびちび飲みながらアベルを待つ。
一度中央に出たアベルにはダンスの誘いの手が止まず、二人、三人と相手をしていく。
一人でたたずむリリアンヌのもとには、今が話す機会とばかりに貴公子たちが集まってきた。
皆がミント王国のことを尋ねるので嬉しくなり、自然な笑顔がこぼれる。
笑い声も交じり、楽しくお話をするリリアンヌの肩をスッと抱き寄せて会話を止めたのは、アベルだ。
「失礼。そろそろ妃を返してもらうぞ」
「え?アベルさま?」
ふわりと抱き上げられて戸惑いの声をあげるリリアンヌに対し、アベルは何も言わずにスタスタと歩き続ける。
半ばさらうように貴公子たちの輪の中から連れ出されて、下ろされたのはテラスだ。
微かに吹く夜風が、お酒で火照った肌を心地よく冷やす。
音楽も話し声も遠ざかり、二人だけの空間は静か。
月明かりと窓から漏れる灯りがほのかに照らすここは、にぎやかな広間とは別世界のよう。
ときめく胸を誤魔化すように星空を見上げれば、一筋の光が長い尾を煌めかせながら右から左へ流れていった。
「アベルさま、今星が一つ流れましたわ!ご覧になりましたか?」
ほうき星の末端までもがきれいに見え、はしゃいだ声を出して笑顔で隣を見上げれば、アベルは空ではなく自分を見つめていた。