わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
そばに屈んでも、動物は逃げることなく黙々と草を食んでいる。
ふわふわと綿毛のような毛並みは柔らかそうで、触れてみたい衝動にかられる。
おとなしそうに見えて背中なら大丈夫そうだと判断し、そっと触れてみようと手を伸ばした。
「リリ!」
「きゃあっ」
自分たち以外誰もいないはずの野原の奥。
急に声をかけられたリリアンヌは驚いて、その場に尻もちをついてしまった。
その拍子に動物はピョンピョンと跳ねるように動き、木々の間に消えてしまう。
「な・・・誰・・・?」
「アイツは見かけによらず凶暴だ。触れば噛まれるぞ。知らないものに、むやみに近づくな」
先ほどまで動物がいたところに男性物の靴と大きな革袋が現れ、それを呆然と見つめていたリリアンヌはヌッと現れた大きな手に引かれて立ちあがった。
そのまま逞しい腕が華奢な体を包み、ぎゅっと抱き寄せる。
その信じがたい行動に戸惑いつつ見上げると、腕の主は眉根を寄せた険しい顔つきで見おろしていた。
「お前はもっと慎重に行動しろ」
「あ、あなたは!」
「レイ、と名乗ったはずだ」
「手を離してください」
「嫌だ、と言ったら?」
レイはからかうような口調で言い、ますます腕の力を強める。
「リリさまをお放しください!」
ハンナとメリーが声をあげてもレイは微動もしない。
なんて力なのだろう。
片腕で拘束されているだけなのに、どんなに離れようと試みてもピクリとも動くことができない。
一体どういうつもりなのか。