わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!


「そっか。奥さんのために運んだのね。キミは優しいね」


運ばれてきたパン屑をついばむ小鳥を見てると、こころがほんわりと温かくなる。

昨日すでに巣があったのだろうか、それにはまったく気付いていなかった。


「んー、気持ちいい」


春風に吹かれながらぼんやりと過ごす。

はるか向こうにそびえる山の向こうは他国で、リリアンヌは生まれてこの方国を一度も出たことがない。

外交は王太子である兄がするし、政治に王女は介入できず、外国の情報は土産話と勉学で習ったことのみだ。

もう十七歳、こんな世間知らずなまま結婚してもいいのだろうかと、ふと思う。

一度は他国を見てみたいけれど、きっと許してもらえない。


「リリアンヌさま!またそんなところにおられるのですか!!」

「きゃあっ」


不意に下から厳しく叱責する声が聞こえてリリアンヌの心臓が跳ね、ついでに体も跳ねたものだからバランスを崩してしまい、慌てて幹を掴んだ。

落ちるのを免れ安堵の息を吐いているリリアンヌの耳に、今度は「大丈夫でございますか?」と心配げな声が届いた。

そんなことを思うのなら、もっと優しく声がけしてくれればいいものを。

ドキドキする心臓をなだめながら見やれば、はるか下の地面ではメイドのカレンが胸の前で手を組んで不安そうにこちらを見ていた。

そうだ。リリアンヌが幼い頃から付いている彼女だけは、この時間ここにいることを知っている。


「大丈夫じゃないわ。急に声をかけないで」

「それは申し訳ございません。でも、国王さまがお呼びでございます。直ちに下りてきてください。あ、あくまでも気を付けて慎重に!ですわ」

「分かったわ。今下りるから」


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