わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
言われた通りにゆっくり時間をかけて下りれば、カレンがオロオロハラハラしている様子が手に取るように伝わってくる。
ちょっとしたいたずら心がわき、さっき驚かされた仕返しをしようと思い付く。
残り背の高さぶんになったところでフッと手を離してストンと飛び下りると、カレンの声にならない叫びが聞こえた気がした。
「リ、リリアンヌさま!心臓に悪いではございませんか!手が滑って落ちたのかと思いましたわ!」
「いやだわ、このくらい平気だって、カレンも知ってるでしょ?」
へなへなと座り込んでいたカレンの手を引いて起こせば、パタパタとドレスの裾を叩いた後、キッとにらんだ。
「だいたいリリアンヌさまはお転婆すぎます!城にご奉公してより三十年以上経ちますが、どこのどんな国にも、木登りして景色を眺める王女さまがいらっしゃるとは聞いたことがございません!ええ、一度もです!」
「でも世界は広いんでしょう?だからきっと絶対どこかにいると思うわ」
実際ここにいるのだから。
「いいえ、リリアンヌさまだけですわ!」
顔面蒼白で断言するカレンのお小言が始まりそうで、うんざりしたリリアンヌは「お父さまが待ってるから」と言い残し、そそくさと謁見の間に向かった。
あぶない、あぶない。メイドであり乳母も務めたカレンのお小言は遠慮がなく、始まると長いのだ。
普段の行いから弓矢の稽古のことまで言及されたらたまらない。
急いで城に向かいながらふと考える。
国王が用事だなんて、久しぶりのこと。
いったい何だろうか。
もしかしたら先日騎士の馬たちのしっぽにリボンを結んだことがばれたのか、それとも城を抜け出して城下に行ったことだろうか。