わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!



もしや落としたのかと思いを巡らせれば、違う、ベッドの上に置いたままだと思い出した。

なんということだろう!部屋から抜け出すのに気を取られ、肝心のお金を持つのをすっかり忘れていたとは!

さっきまで感じていた幸福感が吹っ飛び、たらりと冷汗が出る。

急に挙動不審になったのを店員は訝しげに見ていて、リリアンヌはおずおずと口を開いた。


「あの、どうしましょう?お金を宿に忘れました」


すがるような瞳で店員を見るも、態度は冷たく言葉もきつく・・・。


「無銭飲食なら、警備を呼ぶしかないね」

「取ってきますから、待っててください」

「何言ってんだ、そんなの信用できないよ!あんた、そのまま逃げるつもりだろ?」


ジロジロと頭の先から爪先まで眺め、見かけによらず図太いねえと睨む。


「そんなことしません。絶対に戻ってきますから」

「信じられない。そう言って逃げた客のが多いんだよ。警備隊を呼ぶから待ってな!」


怒鳴るように言う店員の声でざわざわとしていた店内が静まり、飲食をしていた客たちが二人のやり取りに注目しはじめた。


リリアンヌ人生初の大ピンチ。

警備に尋問され、もしも身分がバレてしまったらミント王国の大恥な上に、アベルの耳に入ったらこんな浅はかな王女は嫌だと破談になりかねない。


「あ、あんた、いいのしてるじゃないか。そのネックレス。それで手を打ってもいいよ。高価そうだ」

「これは・・・これだけは、困ります」


花のネックレスをぎゅっと握り、一大事にどうしたらいいかと悩み小刻みに震える肩が、スッと現れた手にふわりと包まれた。


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