わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
「このネックレスと串焼き代じゃあ、割に合わんだろう」
誰?と確かめる間もなく、店員と方々から浴びせられる視線から守るように軽く抱き寄せられ、リリアンヌの視界が男性の服で埋まった。
「この人は俺の連れだ。代金はいくらだ?」
リリアンヌは店員と腕の主の会話を震えながら聞いていた。
まるで兄王太子がするように自然で紳士的で、腕を振りほどくことも、自分の代わりに支払う行為を断ることもできない。
「釣りは要らない。騒がせたな」
行くぞと、視界を塞がれたまま運び出されるように店から連れ出され、解放されたのは閉店した店の前だった。
「助けてくださりありがとうございました。代金はお返しします」
親切なお方のお名前は?と見上げたブラウンの瞳が驚きのあまりに、ぱちくりと瞬きを繰り返す。
どうしてここにいるの?と信じられない気持ちでいっぱいなのだ。
「すでに名乗っているはずだが?」
「あ・・・レイ。どうして、あなたがここにいるのですか?」
「どうしてここにいる?か」
レイはリリアンヌの問いをゆっくりと繰り返し、ずいっと一歩近づいた。
さっきまでの紳士的な雰囲気ががらりと変わり、表情が一気に険しくなる。
鳶色の瞳がギラリと光り、リリアンヌを店の木戸に縫い止めるように睨んだ。
「それは、こっちの台詞だぞ。宿はどこだ。送る」
なんとも低い声。
それに騎士一番に気迫のあるマックも敵わぬ怖い顔で、リリアンヌはこくんと息をのむ。