わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
それに国王が本気で怒ったときと似たものを感じ、逆らえずに大人しく従うことにした。
「・・・ここです」
宿の正面玄関を通りすぎて小道に入り、二階の窓を指差した。
「ここ、なのか?」
「はい。内緒の外出なので、ここから出入りします。今、お金を取ってきます」
「ちょっと、待て」
レイは窓から下がる紐とリリアンヌを交互に見、クックックと笑った。
声を殺してはいるが、可笑しくてたまらないといった様子でお腹を押さえている。
「あの、何がそんなに可笑しいのですか?」
「いや、これは猫どころじゃないな。まったく、とんだじゃじゃ馬だ。嫁の貰い手がなくなるぞ」
「あ、余計なお世話です!」
リリアンヌは真っ赤になって、つんとそっぽを向いた。
お転婆だと自覚はあるが、レイに言われるとなんだか悔しい。
その頭にレイの手がポンとのり、目線を合わせるように屈んで真っ赤な顔を見る。
「まあ、物好きがいる。リリはそのままでいい」
茜色の髪を撫でるようにレイの手が動き、急に優しくなった鳶色の瞳をリリアンヌは不思議な思いで見つめた。
お転婆を叱る人は数居れど、そのままでいいと言ってくれたのは彼が初めてだ。
「気が変わった。代金は金でなく、リリの時間で返せ」
「え・・・どういうことですか?」
「今から俺の飯に付き合え。さっき、食えずに出たから腹ペコだ」
レイはリリアンヌの手を握り、返事も聞かずに飲食店まで誘った。