わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
そうだ、復路でまたこの街に来る。
そう思うとなぜかホッとする気持ちになり、リリアンヌは何気なく花のネックレスを触った。
ナザルの山を越えればリオン王国まであとわずかで、アベルに会える日も近い。
楽しみなはずなのに、少し不安な気持ちが胸をよぎる。
この不安な気持ちの正体は何なのかわからず、リリアンヌはため息を吐いた。
ホッとするのと楽しみと不安な気持ちの移り変わりに戸惑い、またひとつため息が出る。
「リリさま、やっぱり具合が悪いのではないですか?」
ハンナが心配そうにしており、メリーも様子を窺うようにじっと見ていて、リリアンヌは急いで笑顔を作ってみせた。
「そんなことはないわ」
「でも、なんだか元気がありません」
そうハンナが言えば、メリーが後を続ける。
「先ほどからため息ばかり吐いておられます」
「あ・・・それは、お天気のことが心配だからだわ。雨が降ると騎士たちが濡れてしまうでしょう?」
リリアンヌの言葉を受けてメイドたちも窓の外を見上げる。
すると、窓に一滴の水がぽつんと当たった。
「あ、リリさま、とうとう降ってきたようです。ほら」
メリーが言ったそばからどんどん窓に水滴が増え、次第に表面を流れる雨で景色が歪んで見えるようになってきた。
同時に馬車に当たる雨音が大きく聞こえ、そうとうの激しい雨だと分かる。
リリアンヌが騎士たちの様子を確認したくても窓も開けられず、マックに呼びかける声も掻き消える有り様だ。