わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
身仕度を済ませたミント王国の一行。
騎士たちが王女の馬車の前にビシッと姿勢よく並び、隊長の言葉を待つ。
一行の隊長であるマックは空を見上げ、顔を歪めて唸った。
雲は変わらずに黒く垂れ込めているが、まだ雨粒は落ちてこない。
このままもてばいいが、そうもいかないことは分かっている。
騎士だけならば雨など屁でもないが、ぬかるんだ道で馬車が滑れば王女が不安がる。
山は越えずに遠回りをするのも手だが、リオン王国への到着が遅れるのはまずいことだ。
悩み迷うが、予定通り進むことを決意する。
「雨が降りそうですが、皆さんは今からナザルの山へ?」
宿の主人がマックに声をかけ、同じ様に空を見て心配げに目を細める。
「ああ、様子を見たいところだが、日程を変えるわけにはいかないんだ」
「そうですか。ナザルの山は低くて道幅も広いです。雨でも越えやすいですが、十分にお気をつけていってください」
「ありがとう。主人、世話になった。よし!出発する!」
マックの号令で隊列が組まれ、茜色の馬車がゆるゆると進み始める。
リリアンヌ王女がいろいろな体験をしたローザの宿場街がどんどん遠ざかっていく。
「リリさま、この街は楽しかったですね」
「また帰りに寄りますわ。暫しのお別れですわね」
二人が楽しげに語り合うのを聞きながら、リリアンヌは車窓の外をゆっくり流れる景色を眺めた。