あの頃ラッキーストライクと彼

高校三年になり卒業前になると早々と就職が決まった。


福岡の工場だった。

高卒にしては給料も悪くなく俺は不満はなかった。


俺達の県からは、ほとんどが他見に出て働いた。


東京、大阪、福岡、これがほとんどだったし皆条件は悪くなかった。


時代がそういう時代だったからだ。

川野は少し前に学校を中退するとヤクザの事務所に入っていた。


時々事務所の前を通るとジャージ姿で組事務所の前で道路の掃除や水撒きをしてる川野に会ったが目で合図をするだけで話したりは一切しなかった。

出来ない状況に有るのは分かっていたからだ。

卒業式が終わると街から皆が電車に乗って出ていった。


親しい友人が行く時には皆が送りに行った。

最初の方に行った連中はまるで戦争にでも行くかのように見送りも多かったが段々人が少なくなった。

俺は最後の方の為に何度も人を見送ったが自分自身の時には付き合っていた女が来ていただけだった。

両親には、来なくて良いからと言っていた。

女が寂しいを何度も繰り返すからうんざりした。


「寂しい寂しいとか言いながらお前は大阪に行くヤツとこの後大阪で付き合うんだろう。俺が知らないと思ってたのか。」


女は大阪に就職が決まっていて同じ大阪に行く違うクラスの男と最近付き合ってるという噂は俺の耳にも入っていた。


俺は言わなくても良いのに寂しいを連発する女を見てると苛立ち口に出してしまった。

女はハッとした顔をすると否定の言葉を並べ始めた。


俺は面倒になって帰れよ!と大声で言った。


ホームで電車を待つ人達がこっちを驚いた顔をして見たが俺は煙草に火をつけながらもう一度低い声で帰れよと繰り返した。


女はショックを受けたように元気でねと言うとゆっくり背を向けると歩き出した。


その仕草が何だか芝居がかっていて俺は聞こえるようにホームに唾をはいた。


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