夫の教えるA~Z
M 病院へ行こう(上)
「し、支社長。どうか考え直して下さいっ!このプロジェクトは前支社長ともども、支社一丸となって3年がかりで進めてきて……休止となると、現場の反発は必至、それに…」

「もういいよ、石田部長」
 
 額の汗を拭きながら、詰め寄った石田製造部長の顔色が青ざめた。
 
「とにかくもう決まったコトだ。
 黒字転換するまでは、このプロジェクトは無期延期。
 続けたければ、経費節減に……ハゲみたまえ」

 机上のプリントを人差し指でピンと弾くと、それは石田部長の後退した額に当たり、ヒラヒラと舞い落ちた。

「以上だ。現場への説明は…シッカリやってくれたまえ、頼んだよ?」

「くっ…」

バターンッ‼

「覚えてろっ…青二才が」

 陳腐な捨て台詞と共に、彼の姿は乱暴に開け放たれたドアの向こうへ消えていく。


「さて…と」

 キマッたぜ。
 
 俺は、石田部長の少し薄くなった頭頂部に軽く敬礼のサインを送ると、椅子からゆっくりと立ちあがった。
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