夫の教えるA~Z
「ただいま」
 まっ昼間に玄関をくぐるなんて、妙な気持ちだ。
 カチャリとドアを開けると、俺の帰りを待ち構えていた彼女に鉢合わせした。

「あ、アキトさん」
「トーコ」

 俺を待ってたのか。
 なんてイジらしい……

 思わずヒョイと抱き上げて、かじりつくように口付ける。
 
「うっく…」
 昼間にはいかにも不似合なディープキスに持ち込んでやると、彼女はへにゃへにゃと床に崩れ落ちた。
 
「グロスが落ちちゃった」
「そうかい、じゃあ塗り直しにいこうか」

 “ヤだっ、そしたら出発がまた遅れて…”

 訳の分からん事を叫んで暴れる彼女を抱いたまま、寝室のドレッサーまで運んでゆく。



 今日俺は、こっちに来てから初めての休暇を取った。
 というのも、ここ半年たまりにたまった奥サンとの約束を果たすため。
 そう、何を隠そう平日のまっ昼間からデートに出かけるのだ。
 
 いくらトーコが俺に惚れまくっているにしても。『食う、ヤる、寝る』のみの結婚生活では味気ない。

 しまいには世の習い、
 “アナタって、釣った魚にエサはやらないのねっ”などと言われ、見損なわれてしまうだろう。
 そんなのは俺のプライドが許さない。

 俺は、仕事も家庭も抜かりなくヤれる男なのだ!
 
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