夫の教えるA~Z
「ぐぇっ、く、苦しいよ…トーコちゃん」
「…………」

私は黙り込んだまま、もがく彼を冷ややかに見下ろした。


そうだ、さっき気がついた。

怒り方。

社会に出てから3年間、毎日ずっと横で見て、実体験で教えてもらっていたじゃあないか。
誰あろう、目の前で無様にヘタリ込んでいるこの男、大神秋人その人に。

同じようにやればいいんだ。

心臓がドクドクと脈打つ。 
瘧のように全身が震え、燃えるように熱い。

「あのコとシたの?」
プルプルと、小さく首を横に振る。

「ちゃんと答えて!」
「ぎゃんっ」

まるで暗示にでもかかったみたい。
私は今、目の前にいるこの男が心底憎い。

「そのようなことは決してございませんっ、ハイッ」

「…本当に何にも?チューもダッコもしてない?」

コクコクと頷く。

「……ちょっとは……あ、いや大丈夫です!
ぐえっ」

ぐいっ。
私は更にネクタイの根元を掴み、鼻がぶつかりそうなほど顔を近づけた。

「ねえ……アナタがそうしている間、私はどれだけ待ったと思う?

私にはアナタしか居ないのに。
アナタは、誰でもいいんでしょ?
今日あったことを話すのも、誰が作ったゴハンでも、…時には一緒に眠るのも」
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