夫の教えるA~Z
「ところで……君は?」
「は?」

 彼は突然私を見下ろし、ニッと口角を上げた。
 私は、その意味を汲み取れず、今一度彼に目で問いかける。

「『は?』じゃない。
 俺だけに言わせといて、それはないだろう。
 あ~、何だっけ君の昔のオトコ。
ハヤ…ナンとか。ソイツと旅行とかイってたの?」

「は…え?う~…あ~…まあ…」

 そりゃ確かに、学生時代の彼、ハヤト君とは色んなトコに行ったけど。

「あ、あのね?旅行といってもモノスゴイビンボー旅行で…あ、そういえば…
1度2人で熊本までチャリ旅行したことがあって」
「そっかぁ、で?」
 
「ええっと……あ、そうだ!
 その後ね、峠でとうとうダウンしちゃてね、仕方無いから野宿するハメになって」

「フフ、そっか。
そういう思い出の一つ一つが、今のトーコを造ってるんだな」

 彼は優美に微笑むと、うんうんと頷いた。

 あれ、意外と好感触。
 てっきり自分のコトは棚に上げる、ヤキモチ焼きだと踏んでたんだけど。

 過去の恋愛(コト)話なんかで決して妬いたりはしないんだ。
 どころか、それも全て含めた私を見ていてくれる、広い心にたゆたうように私を受け止めてくれる。

 やっぱり彼は…大人の男(ヒト)なんだな。
 
 私は、ちょっとだけ自分が恥ずかしくなった。
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