夫の教えるA~Z
「ハイ!その通りです」
松田は元気よく告げた。

「大神支社長なら当然ご存じだと思いますけど、うちの社では毎年、社員の健康診断が義務付けられてますよね?支社でも毎年、検診車に来て貰ってやってもらうワケですけど…
大神社長は特に、これからの支社になくてはならない大切な方です。
そこで僕、支社長には特別に、通常健康診断ではなく、ドックを予約しておきました!」
「ぶ…」

ピシッと靴を揃えた敬礼。
褒めて貰いたいときのワンコのような、キラキラ輝く真っ直ぐな瞳。
その全てに俺は________

「ぶわっかも~~~んっっ」
某磯野家の家長の如くキレた。
「え、え、何で?どうして?」

「そんな下らないコトに貴重な会社の経費を使うんじゃない!大体、俺まだ30だぞ?!元気いっぱい、ヤリたい放題のお年頃…」

「下らなくなんかありませんっっ!!」
「エ?」
突然、松田は俺より大きな声で怒鳴った。あまりの気迫に思わず気圧されているうちに、松田は涙を流しつつ、ブルブル肩を震わせながら、訴える。

「もし大神支社長に何かあったら、この北九州支所はどうなるんですか!?
やっと皆が纏まって、一丸となってやっていこうって時に…
貴方、ただでさえ仕事中毒(ワーカーホリック)気味なんですよ?僕なんて、心配で心配で…
ああ今日はお顔の色が優れないなとか、お昼に肩を回していらっしゃる時なんて、ああ、なんなら僕が肩を揉み揉み、いや、いっそのこと、全身隅なくマッサージして差し上げたいとか、毎日気を揉んでいるっていうのに…!」
「ま、松田…クン?」

「と に か く!
大神支社長の人間ドックは、北九州支社(わが社)の最大重要事項っ!
…もし、それが嫌なら僕の毎日の健康チェックと全身マッサージ(タイ式)を受けていただきます」
「わ、わかった!
行く、行きます。人間ドックに行ってきます!」

「ハイ、分かって頂ければ結構です。じゃあ、早速明後日のスケジュールに入れときましたんで、宜しく~」

急に機嫌を直した松田は、ニコニコ顔で元気よく戸口へ向かう。

「あ、ああ」

その背中に小さく手を振りながら、俺は思考を巡らせた。
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