ツインクロス
電話の相手、友人長瀬と雅耶は中学入学以来の友人だ。こんなふざけたやり取りはいつものこと。
そして長瀬とは、この春同じ高校への入学が決まっている。
「ははは、冗談だよ。ところで何か用か?」
『ああ、お前ヒマだろッ?これから出てこないか?今駅前にいるんだけどさー…』
最初から人を暇人扱いしている友人に思わず苦笑が漏れるが、そんな長瀬の誘いに雅耶は乗ることにした。待ち合わせ時間と場所を決めると、電話を切って出掛ける準備を始めた。



(…遅い)

雅耶は、行き交う人混みを眺めながら溜息を付いた。
(なんなんだアイツは…。人を呼び出しといて待たせるなってーの!)
もう、待ち合わせの時間から10分を過ぎようとしている。一向に来る気配のない友人の姿を探して、雅耶は周囲を見渡した。
駅周辺にはショッピングモールなども隣接しており、普段から人混みは多い方なのだが、春休み中なのもあってか学生や親子連れの姿も多く、今日はかなり混雑している。
何気なく視線を流していると、ふとした拍子に小さな子どもが転ぶ姿が目に入った。まだ、3~4才くらいの男児だった。
「うっ…」
子どもは、勢いよくうつ伏せに倒れ込むとそのまま顔だけ上げて、
「うわあああぁーーーーんっ」
大声で泣き出した。

(あらら…)

周囲の人々の注目が、瞬時にその子へと向かう。
だが、泣いている子に駆け寄る者はいないようだった。
(誰か…保護者はいないのか…?)
あんな小さな子どもが、一人でこんな場所にいる訳ないだろうに…。
周囲に目を配る。周囲の人々も子どものことを気に留めながらも、みな通り過ぎていく。
(誰か…)
そう、思った時。
傍を通りかかった一人の少年が床に片膝を付くと、その泣いている子どもを抱き上げた。

「大丈夫か?」

そっと立たせると、服の汚れをぱたぱたとはたいてやっている。子どもは、その少年を頬を濡らしながらキョトンと見上げていた。
『誰か…』だなんて。俺は自分が恥ずかしいと思った。自分とそう変わらない年頃の、少年のその行動に。少なからず好感を持って、暫くその様子を眺めていた。
「ほら、男の子だろ?」
少年が頭を優しくなでると、子どもはこくこく頷いて涙を拭くと泣きやんだ。
どれだけ、そちらに気を取られていたのだろう。

「…や……さや…」
「……」
「おいッ雅耶!!」

そこで、ハッとして自分が名を呼ばれていることに気が付いた。
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