ツインクロス
隠された想いと真実
子どもの足が付く浅瀬の辺りまで来ていた、母親らしき女性の元へと子どもを抱えて連れて行く。

「ありがとうございますっ!本当にありがとうっ!!」
「ママァーーっ」

母子は抱き合って、泣きながら無事を喜びあっていた。
(…良かった)
雅耶はホッとして、後ろにいるであろう冬樹を振り返った。
だが…。

「…冬樹?」

そこに冬樹の姿はなかった。
「……っ!?」
驚いて、先程いた辺りへと視線を流した雅耶は、水の中へと呑まれていく冬樹の姿を目撃する。
「ふゆきっ!!」
瞬時に水を掻き分けながら、雅耶は冬樹の元へと駆け出した。

(くそっ!何でっ…)

てっきり冬樹は、自分の後をついて来ているものと思っていた。
子どもを抱えて泳いでいたとはいえ、冬樹が苦しんでいるのに気が付かなかった自分に、怒りが込み上げてくる。
(あいつは服を着ていたから、きっと思うように泳げなかったんだ。だから、あの子を俺に託した…。何で俺は、それに気付かなかったんだっ!)

これで、冬樹にもしものことがあったら…。

ざわざわとしたものが背筋を走る。
頭を過ぎった縁起でもない想像に、雅耶は頭を振ると必死に前へと足を運んだ。
先程、子どもを助けに向かった時よりも何故か思うように前へ進めないようなもどかしさを感じる。

「くっ…冬樹っ!」

やっと深くなっている場所まで辿り着くと、雅耶は勢いよく海へと潜った。
海の水は思ったよりも透明度が高く、周囲を見渡す事が出来た。

(…どこだっ、冬樹っ!!)

泳ぎながら目を凝らすと、数メートル先にそれらしい人影が目に入った。
もう息が限界に近いのか、もがくこともせず動かないでいる。
雅耶は見失わないように必死に潜って泳いで行くと、冬樹に手を差し伸べた。

(冬樹っ!!)

冬樹は目を伏せていたが、雅耶の心の呼び掛けが聞こえたかのようにうっすらと瞳を開くと、僅かにだがこちらに手を伸ばしてきた。
雅耶はその手をしっかりと掴むと、その手を引きながら急いで浮上する。

「ぷはっ」
「うっ…げほっごほっ」

冬樹は苦しそうに咳込んでいたが、何とか呼吸をして酸素を取り込もうとしているようだった。
「はぁっ…はぁっ…。ふゆき…、無事で…良かった…っ」
雅耶は冬樹の身体を仰向けにすると、出来るだけ顔に水が掛からないように気を付けながら、すぐさま岸へと向かって泳いで行った。

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