ツインクロス
罪と願いと…
その日。
帰りも力は当然のことながら電車で、例のごとく途中まで冬樹は一緒に帰ることになってしまった。だが、特に一緒に帰ろうと約束した訳ではなく、ただ方向が一緒なのでそのまま自然と傍に居た…と言った方が正しい感じだ。
力は冬樹の降りる駅よりも、もっと先の駅で乗り換えるのだという。
話し掛けられれば答えはするが、冬樹は特に力を意識することなく普通にいたので、会話は途切れがちだった。
だが、昼休みの件以降、心なしか力は静かで少し元気がないように見えた。
いつも程、自己主張をして来ないのだ。
それはそれで、冬樹にとっては都合が良かったのだが。
(…昼休みのアレで毒が抜けたのか?)
などと、気楽に受け止めていた。

冬樹が降りる駅の一つ手前の駅を電車が出発した時、ずっと黙っていた力が、ふと思いついたように口を開いた。
「なぁ…冬樹」
「………?」
ドア横に立って車窓から外の景色を眺めていた冬樹は、声を掛けられて視線をチラリと力の方へと向ける。
「お前さ、あの別荘で親父達が何をしていたか、知ってるか?」

「え…?」

突然の思いもよらぬ話題に、冬樹は目を丸くした。
「何を…って…」
冬樹は瞬時に過去の記憶を振り返ってみたが、よく分からなかった。
と、言うよりも、そもそもそんなこと考えたこともない。
子どもの目線としては、難しい『仕事の話』をしている程度の認識でしかなかったのだ。
冬樹が小さく首を横に振ると、力は静かに「…そうか」と、頷いた。
「あの別荘に沢山の温室があったのは覚えているか?」
「あ…ああ…」
広い敷地内にガラス張りのしっかりした温室が幾つか建っていたのは記憶にある。
「あれは、全て薬草園なんだ」
「やく…そうえん…?」
「そう。一つだけ母が育てているハーブの温室もあったが、殆どは薬草だ。野崎のおじさんと親父は、ずっとあの別荘で新薬の開発をしていたんだ」
「新薬…」
冬樹は驚きの眼差しで力を見た。

(そう、だったのか。知らなかった…)

初めて聞く話しに冬樹が呆然としていると、もうすぐ駅に到着するアナウンスが車内に流れ始めた。
冬樹は減速していく電車を気に掛けながらも、訝し気に疑問を口にした。
「でも、何で今…突然そんな話をするんだ?」
すると、力が思いのほか真面目な顔で言った。
「その薬を完成させたのは、お前の親父さんだった。お前を狙っている奴等が探しているのは、そのデータなんだ」
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