ツインクロス
譲れない想い
雅耶は駅から家までの道のりを足早に歩いていた。

本日行われた空手大会では、個人戦と団体戦が行われ、成蘭高校は団体戦で三連覇という快挙を成し遂げた。
団体戦に雅耶達一年生は参加していないが、三年生はこの大会が終わると同時に引退となる為、下級生達の応援にも熱が入り、雅耶が冬樹からのメールに気付いたのは、決勝戦が終わった後の皆が興奮に沸いている中でだった。

『父さんの研究データを見せて貰う為、別荘に来てる。』

思ってもみなかったその内容に、雅耶は大きく目を見張った。
(馬鹿かっ!あれ程忠告しておいたのに、無防備すぎるだろっ!)
思わず携帯を持つ手に力が入る。
心配を通り越して憤りさえ感じてしまう雅耶だったが、その後の文面に目を通すや否や、今度は簡単に毒気を抜かれてしまった。

『心配してくれてたのに、事後報告になっちゃってゴメン。』
『試合頑張ってね。応援してる。』

雅耶は一人、携帯を手に脱力すると小さく溜息を吐いた。
(まったく…。敵わないな…)
そんな何気ない言葉が、こんなにも嬉しくて仕方がないなんて、自分は何て単純に出来ているのだろう…と思う。
思わず口元が緩みそうにさえなって、雅耶は自らの拳でそれをさりげなく隠した。
(…こういうのを敢えて狙ってやってるんだとしたら、タチ悪いよな…)

あいつに限って、それはないだろうけれど。
俺がいつもどんな気持ちで傍に居るのか…きっと、考えてもみないのだろうから。

雅耶は歩きながら、ポケットから携帯を取り出して新しいメールが来ていないかチェックした。
だが、冬樹からその後の連絡は入っていない。
(無事であるなら、別にいいんだ…)

今冬樹は、父親のことが何よりも知りたくて堪らないのだろう。
気持ちは分かる。
亡き父を信じたい気持ち。
そして、その全てを解りたいと思う気持ち…。
(あいつのことだ。きっと、それなりに危険を覚悟で行ったに違いない…)

でも…。
こちらの気持ちも分かって欲しい、と思ってしまうのは傲慢だろうか。
今迄にも、何度か危険な目に遭っているのだから、もう少し自重して欲しいと思うのに。
力を(はな)から疑っている訳ではないが、もしも何かあってからでは遅いのだ。
あんな遠くの別荘では、自分は助けに駆けつけることすら出来ないのだから。

(でもな…。それこそが『夏樹』だとか思えちゃうところが問題だよな…)

雅耶は空を見上げると、心の中で苦笑した。
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