ツインクロス
禁断の恋?
ある日の昼下がり。

食堂で昼食を取った雅耶は、長瀬と一緒に教室へと向かって歩いていた。
廊下の窓から見える空はどんよりと曇っていて、今にも雨粒が落ちてきそうだ。先日、この地域でも梅雨入りが発表されたばかりだが、毎日の様に続く雨模様に何だか気持ちも重くなりがちで、雅耶は小さく溜息をついた。
(午後の授業は、英語に数学か…)
正直、かったるい。

すると、すかさず横にいた長瀬が茶々を入れてきた。
「なーに?雅耶クン、溜息なんかついちゃって。悩ましげだのぅ」
相変わらずの長瀬の言葉に、雅耶は笑って言った。
「ばーか。そんなんじゃないって。午後の授業かったるいなーって思ってただけだよ」
「ふーむ…。ちょっと前までは、ホントに悩み多き青少年って感じだったくせにー。何その余裕のコメントー。つまらーんっ」
長瀬がふざけながらも、不満そうに腕を組んで言った。
「えー?何だよそれ?俺がいつ悩んでたっていうんだ?」
言われている意味が本当に解らなくて雅耶は首を傾げるが、それを見て長瀬は尚更ツッコミを入れてくる。
「えー?本当にもう忘れちゃってんの?あんなに誰かさんのことで思い詰めてたのに。…すっかり平和ボケした顔しちゃってまぁ…」
こういう時の長瀬の言葉は、本当に言葉遊びのような感じなので、雅耶は特に気にせず「えー?誰のこと言ってんの?ヒドイ言われ様だなー」…とか言いながら、笑って流していた。
すると、長瀬が何かに気付いて、
「おっ。ウワサをすれば…」
と、小さく呟いたので、雅耶は何気なく長瀬の視線の先を追った。

「あれ?冬樹…?」

階段の前に差し掛かると、丁度冬樹が階下から上がってくるところだった。
冬樹は二人を確認すると、若干表情を緩めた。
「…昼メシの帰り?」
「ああ。…お前はどこ行ってたんだ?飯はこれから?」

お互いに足を止めて会話する。
冬樹は口数はそんなに多い訳ではないが、あれ以来こんな風に普通に会話をしてくれるようになった。何より以前とは表情が違う。それが雅耶は嬉しかった。

「ん。ちょっと保健室行ってたんだ。今から食堂行ってくる」
「…って、どこか調子悪いのか?」
「身体測定…オレ休んでたから呼び出されただけ」
「ああ、そうなんだ…」
「じゃあな」そう言って、お互いに手を上げてその場で別れた。

その横で一緒に冬樹に手を振りながらも、コチラを見てニヤついている長瀬に雅耶は「…何その顔。やな感じ」と、軽く肘打ちを食らわせた。
「それにしても、冬樹チャンとはすっかり打ち解けたねぇ。良かった、良かった。雅耶の一途な想いが通じたんだねェ」
そう言って、にゃはは…と笑う長瀬に。
「またそんな誤解を招くような言い回しして。そういうの、ここじゃホントにシャレになんないからやめろよなー」
雅耶は周囲を気にしながら、多少声を落として言った。
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