ツインクロス
(コイツ!…ワザとらしい…)

そう、思いつつも。長瀬がこっそり冬樹の写真を持っていて、時々眺めるのを想像するだけで、すごく不快な気分になった。

何でお前が…!
冬樹は、俺の…。

そこまで、考えて自分自身の考えに愕然とした。

(俺の…?…何だっていうんだ?)

自分の思考に驚きながらも、長瀬にも他の男にもこの写真を渡したくはなくて。
「…分かったよ」
俺はポケットから財布を取り出すと、
「ほら…これでいいんだろ?」
そう言って、長瀬のトレーの上に小銭を落とした。
「はーい♪毎度ありー」
長瀬は封筒に三枚の写真を入れると、俺に渡してきた。

その時。
「あっ…まだいたんだ。良かった…」
そう言って、冬樹が俺達のテーブルへとトレーを持ってやって来たので、二人して慌てて何事も無かったかのように平静を装った。

胸ポケットにしまった封筒が妙に重く感じ。
俺の中には、後ろめたさだけが重く圧し掛かっていた。




「冬樹…保健室の用事はもう済んだのか?」

皆に後れを取ってしまったので、少し急ぎながら昼食に手を付け始めると、雅耶が控えめに聞いてきた。
「ああ。別に大した用事じゃないし、すぐに済んだよ」
そう言うと、何処かよそよそしい雰囲気で「そうか…」と返された。
珍しく視線も合わせない。

(雅耶…?)

どうしたんだ…?
雅耶は何だか元気がない様子で、逆に隣にいる長瀬はこっちを見ながら妙にニコニコしている。
(二人とも、違和感アリアリなんだけど…)
「…どうした?二人とも何かあったのか…?」
二人の変な空気に疑問を持って冬樹が聞くと、二人は顔を見合わせて、
「そっ…そんなことないよなっ?」
「別に…なーっ?」
口を合わせてそう言うと、肘でお互いを小突き合いながら笑っている。
「…変な二人…」
(喧嘩でもしたのかな…?)
冬樹は首を傾げると、とりあえず食べる方に集中した。
何だかんだやってても、この二人は凄く仲が良いので問題はないだろうから。

暫くすると、長瀬が「ねーねー冬樹チャン」と、話しかけて来た。
長瀬は何故か自分のことを「ちゃん」付けで呼んでくる。前々から「『ちゃん』はやめろ」と言っているのだが、「いーじゃないのー」…と流されてしまい、今では既に諦めモードだった。ただ長瀬の場合は、他の奴に対しても割とそういうノリなので、まあ善しとする。
「最近、保健の清香先生と仲良いよねー?」
唐突な話題だな…と、思いつつも、隣で何故か慌てて長瀬を再び肘で小突いてる雅耶が目に入って、首を傾げる。
「…え?確かに色々世話にはなってるけど…。別に普通だろ…?」
語尾を雅耶に振ると、雅耶はイマイチ不自然な笑顔で「そ…そうだよな?」と、相槌を打っている。

(なんだ…?やっぱり何か変だな…)
< 82 / 302 >

この作品をシェア

pagetop