ツインクロス
忍び寄る影
ある夜のこと。

雅耶はその日、普段通り部活を終えて帰宅した後、夕食と入浴も済ませ、自室でゆっくりくつろいでいた。朝から降っていた雨は夕方には止み、部屋に風を入れる為に窓を開けていた。外からは、既に夏の虫達の鳴き声が聞こえてくる。
(何か、随分ムシムシしてきたな…)
湿度が上がってきたのか不快感を覚えた雅耶は、読んでいた雑誌をベッドに置くと、エアコンを付けようと窓を閉めに立った。窓の縁に手を掛け、何気なく暗い外に目をやる。目の前に見える冬樹の実家は、相変わらず人の気配はなく、暗く静まり返っている。
(冬樹…この家に戻って来る気はないのかな…)
そもそも、この町に越してきてから、一度もこの家に足を運んでさえいないのかも知れない。雑草に覆われた家主のいない家は、あまりに冷たく寂しい感じがする。
(きっと、まだ…色々思い出してしまってツライんだろうな…)
それでも、最近の冬樹は笑顔を取り戻しつつある。
高校入学当時と比べたら、段違いに良い顔をするようになったと思う。
(焦らなくていいんだよな…。無理してこの家に向き合うこと…ないよな…)
自分も最初は、この景色を見るのが辛かったのを思い出す。


いつも温かな光と笑い声に包まれていたこの家が、その日からずっと…暗く閉ざされたままで…。
この家のドアを叩けば、いつだって冬樹と夏樹が飛び出して来て、一緒に笑い合っては楽しい時を過ごしていたのに…二人の姿はもう何処にもなくて。

どうして、こうなってしまったんだろう?

この暗く閉ざされた家と共に、自分だけが忘れ去られ…置いていかれてしまったようで、とても悲しかった。

(でも、そうじゃない…)

一番辛く、苦しい思いをしたのは冬樹に違いないのだから…。


雅耶は視線を落とすと、窓を閉めようと手を掛けたその時。
(…誰か…いる…?)
冬樹の家の前に、佇む人影を見つけた。通りすがりに眺めている…というよりは、じっ…と、門の前に足を止めて家を見据えている感じだった。
(もしかして、冬樹…?)
雅耶は目を凝らして見てみるが、そこには丁度街灯がなく。
暗くて顔や表情まではよく見えなかった。
だが、冬樹とは少し背格好が違う気もした。

(何を…してるんだろう…?)

雅耶が眺めていると、その人物は不意にこちらに気付いた様子を見せ、足早にその場を去って行ってしまった。


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