ツインクロス
(でも…)
自分の席に着いた冬樹は、ふと思った。
(オレ…今、家がどんな状態で置かれてるのか全然知らない…)

冬樹は叔父の家に引き取られて以来、一度も家には足を運んでいなかった。この街に戻って来てからも、少し足を延ばせば行ける距離なのだが、ずっと避け続けてきたのだ。

(オレは…沢山の思い出が詰まったあの家に戻るのが、ずっと怖かった…)
時間が経てば経つ程…それは、大きくなっていって。
あの家に戻ることで、孤独と現実を思い知らされてしまう気がして。
(でも、そんなのはもう…今更だ…)
結局は、自分の保身の為…あの家に向き合えなかっただけだ。
その勇気がなかっただけ。
目を反らして逃げていただけ…。

だが、今は不思議とそこまで重いイメージはない気がした。
(それは、清香先生や直純先生。…それに、雅耶のお陰だよな…)
以前のように『一人』に固執することがなくなった自分。
以前は『孤独でいること』こそが、一人残ってしまった自分に対しての罰だと思っていた。でも、結局それも…自分にとっての都合の良い解釈でしかなかったのだ。
そんなことをしていても、自分の『罪』が消えることはない。

この『罪』が赦されることはないのだから。

でも…それを自覚したことで、逆に気持ちが楽になった。

一人物思いにふけっている内に既にチャイムは鳴り、いつのまにか担任も教室に来ていたようだ。前で担任が出席を取り始める中、冬樹は窓の外を眺めると小さく息をついた。
(今度…家に帰ってみようかな…。様子を見るだけでも…)



「…え?お休み…ですか?」
「そう。明後日の日曜日。ROCOは、丸一日お休み」
『Cafe & Bar ROCO』店内。
夕方、バイトに入ったばかりの冬樹は、直純からの突然の報告に驚いた。
「急…ですね。何かあったんですか?それに、日曜日お休みなんて珍しい…」
バイトを始めてから、初めてのような気がする。
すると、直純が苦笑いをして言った。
「うん。もともと俺が空手の大会入ってて、本当は仁志と冬樹にお店お願いしようと思ってたんだけど…、仁志も急な用事が入っちゃってね。仕方なく今回は休むことに決めたんだ。急でごめんな、冬樹…」
「いえ、オレの方は全然大丈夫です」
(日曜日に丸々休みなんて珍しいし、何処かに出掛けようかな…?)
突然開いてしまった日曜日の予定に、冬樹は考えを巡らせていた。
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