私たち暴走族と名乗ってもいいですか?(下)

決裂


 あれから、お母さんの目を盗んで商店街に通ってはいるけど記憶が戻るような兆候は何もなかった。

 むしろ、たまり場で部分的に思い出したあれだけで、他はかすりもしなかった。

 どうして、話を聞けば変わるのかな…?

 ノンタンやトーマス、ひまっちやさーちゃんにも会ったけど、思い出したのは逃げろって言う声と、みんなの怖い顔だけで、ケンカした相手のことは全然思い出せなかった。

 思い出せないまま、怪我をしてから既に1か月。

 声も戻らない。はじめはみんな気にしてたけど、今ではもうみんな普通の態度に戻ってる。

 頭の傷も抜糸もとっくに済んで、指の骨折も治った。

 怪我は治ったのに、記憶はあいまいで、声は戻らない。

 それじゃあ、意味ないのに…。

「秋奈?手止まってるぞ~」

「ッ!?」

 肩を突かれてびっくりする。

 横を見ると呆れ顔の理紗がいて、目の前には塗りかけの段ボールがあった。

 あ、そっか。文化祭の準備してたんだった…。

 教室の中はあちこちみんなが準備してて、楽しそうだ。
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