ぼっちな彼女と色魔な幽霊
日が暮れそうだ。こんな時間にまで放課後、外にいたことなんてなかったな。春の海はまだ寒くて、心地よく感じた風もすぐ身体を冷やすものに変わっていた。
「帰るか」とヨウはわたしより少し先を歩いた。
「帰りは走らないからね」
何も言わず、片手をあげた。了解の合図か、その気はねーよってことか。
わたしは名残惜しくて、もう一度、最後にと海を見た。
波打ち際に、男の子がいた。さっきのわたしみたいに波に近づいては離れて遊んでいる。
あれ? あんな子、いたっけ?
浜に向かって歩く。顔を上げた。小学生の低学年くらいかな。大きな瞳に筋の通った鼻、小さいのに、もう完成しているような大人びた顔つきだった。
周りに母親のような人もいないからひとりで来てるのかな。この夕方の海に。日は落ちてこれから暗くなっていくのに。
「置いてくぞ」
「あ……待って。なんか男の子がひとりでいるから大丈夫なのかなと思って」
「男の子? いねーだろ、そんなの」
「はっ?」
振り返ると、人の気配すら残っていなかった。