優しい嘘はいらない

その時

「向井さん?」

背後で私を呼ぶ声にビクッとして振り返ると、そこにはイケメンが2人

「…‥お疲れ様です」

山城さんと溝口さんだった。

「お疲れ様…ここで会うなんて偶然だね」

「そうですね…お2人は飲みに来られたんですか?」

「溝口さんの結婚式の二次会をここでやるんだけど、その打ち合わせも兼ねて飲みに来たんだ。後で嫁さん達も来る予定」

イケメンフェイスをだらしなく崩して照れくさそうに笑う顔は、山城さんは幸せなんだと教えてくれる。

ちょっと憧れていただけに、がっかりしている私。

こんな山城さん見たくなかったなぁ…

「待たせて悪かったな…」

山城さん達の後ろから少し威圧的な声で話しかけてきた人物は、会いたかったけど会いたくなかった人だった。

山城さん達をなぜか睨む彼にイヤな顔もせず、山城さんと溝口さんはまたねと手を上げて奥の席に向かっていく。

隣にドサっと座る五十嵐さんの態度は、やはり不機嫌。

この間の醜態に怒っているんだと思うと怖くて彼を見れなくて志乃を見ると、隣に座った佐藤さんに頬を染めてこちらを見てくれない。

行き場のない視線を目の前のグラスに向けたまま

「こんばんは‥」

と挨拶をした。
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