冷たいキスと獣の唸り~時間を巻き戻せたら~
★
夜の冷たい空気は、頭を冷やすのに最適だった。
目的地に着く頃には、心も頭も静かで落ち着きを取り戻せている。
それでも、うっぷんを晴らす口実が欲しかった。
満月を控えているとき以外で、瑞季がそんな気分になるのは始めての事だ。
自分自身でさえ、どうしたらいいのか分からないでいる。
(オレは……どうしたってんだ)
どんなに心に問いかけても、答えなんて出ない。
瑞季は乱暴に頭を掻いてから、広くて暗い公園へと足を踏み入れた。
すでに人が出歩く時間は過ぎていて、風に揺らされて擦れる葉の音と、猫のケンカする声だけで平和なものだ。
一時間ほど、酔いを冷ましている人間を装いながら歩いた後、車に戻った瑞季は次の見回りルートへと車を走らせた。
しかし、何ヵ所回ろうと、こういう日に限って何も起こらない。
瑞季たち人狼の仕事は、罪のない人間が吸血鬼の被害にあわないようにすることだ。
見回りという名の仕事を終わらせる頃には、発散できずにいたせいで苛々していた。人間を襲う吸血鬼を見つけて痛めつけてやれば、少しはストレス発散にもなったはずなのに、あてがはずれた。
これでは、いつもの発散のしかたをするしかない。
普段の瑞季は、こうした苛立ちは性的欲求に変えて発散している。
夜中ーーもう朝方といってもいい時間だろうが、見つけようと思えばベッドの相手くらいバーやクラブに入れば見つかるだろう。
最後の場所を見回って、車に戻ってエンジンをかけた時には、瑞季自身もその気だった。
なのに、今では気が進まなくなっている。
(あー、なんだってんだよ!)
仕方がなく、自室に戻るために車をUターンさせた。