冷たいキスと獣の唸り~時間を巻き戻せたら~
瑞季は苦しんでいた。
欲求とアルファ。
二つに天秤の間で挟まれてーー。
「これはどういう事だっ!!」
突然、鋭い咆哮が館の壁を震わせた。
瑞季の中に眠る獣が目覚め、意識の表面近くまで浮かび上がってくる。
人狼の中にいる獣は、満月の夜以外には魂の奥で深く眠っている状態だ。
起こす事が出来るのは、吸血鬼の存在、怒り、伴侶、そしてーーアルファの声。
まず間違いなく、今の咆哮はアルファである月城狼呀だ。
瑞季は直感に従って走り出した。
あの咆哮からして、まず間違いなく目にしたモノが何であるかは察しがつく。
館に入ってからすぐに、狼呀は吸血鬼の気配に気づいたはずだ。
なんせ彼はもっとも力が強いと言われるアルファの中のアルファなのだから。
たとえ友人だとしても、彼はアルファで瑞季は永遠にベータ。生まれた時から人狼であるのと同じくらい、ずっと変わらないもの。
アルファの右腕であり、アルファが不在の時には取って代わろうとする者から命懸けで群れを守る存在。
アルファに歯向かう者を追い払いはしても、アルファが正しい限り決してアルファに歯向かわない者であり、アルファが正しくなかった時には止めることが出来る者。
それが瑞季だ。彼の中の獣もそれは分かっている。
でも、予想外の事が起きた。